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大阪高等裁判所 昭和42年(ネ)277号 判決

控訴人

株式会社近畿通信鉄工

右代表者清算人

矢持幸吉

右代理人

阿部甚吉

太田忠義

滝井繁男

岩崎光太郎

平山芳明

被控訴人

浜名厳夫

右代理人

原田永信

榊原正毅

榊原恭子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

〈前略〉

ところで継続的手形割引契約上の債務等を担保するため不動産上に根抵当権を設定し、これに併せて右不動産につき代物弁済予約を締結した形式が採られている場合に、予約完結時における当該不動産の価格と被担保債務(元本、利息、損害金)額とが合理的均衡を失するような場合には、右代物弁済予約完結の効果は、債権者をして目的物件を換価処分し、これによつて得た金員から債権の優先弁済を受ける地位を取得せしめるに過ぎず、その際すでに他の債権者が右物件につき強制競売に着手している場合には、代物弁済予約を完結した債権者の権利主張は、その債権についての優先弁済権を主張しその満足をはかる範囲に限られるべく、これを超えて、その地位を右の他の債権者に対抗せしめ、その執行を全面的に排除する結果をもたらす第三者異議の訴、ないしその前提をなす本登記手続承諾請求の訴を許すことはできないものと解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷昭和四二年一一月一六日言渡判決、同第二小法廷昭和四三年三月八日言渡判決参照)。

これを本件についてみるに、根抵当権設定および代物弁済予約の併用形式が採られていることおよび予約完結時の被担保債務額が五、〇三一、〇〇〇円であつたことは前記説示のとおりであるところ、証人永田昭二の証言によれば、昭和三六年四月頃の本件各物件の価格は総額約一〇、〇〇〇、〇〇〇円であつたことが認められ、予約完結時である昭和三七年一一月にも少くともこれと同額の価格であつたことが推認されるから、当時不動産価格と被担保債務額とは合理的均衡を失していたものというであり、したがつて被控訴人は右予約完結により本件各物件につき前記優先弁済権を伴う換価処分権を取得したに過ぎないものと解するのが相当である。しかしながら本件においては、控訴人が本件各物件につき処分禁止の仮処分をしたことはあるが(このことは後記のとおり当事者間に争いがない)、自己の債権の満足を得るため強制競売に着手したことについては主張立証がないのであるから、控訴人は被控訴人が本件各物件につき控訴人に対して、本登記手続承諾請求の訴をなし所有権取得の本登記を得たうえこれを換価処分することを妨げることはできない。

ところで前記説示のとおり、少くとも一覧表(四)の代物弁済予約は適法に停止条件付で完結権が行使され、しかも停止条件が成就したのであるから、前記被控訴人の本件各物件についての処分権の取得は、右(四)の代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全仮登記(昭和三六年四月一三日受付)によつてその順位を保全されているということができる。〈後略〉

(入江菊之助 小谷卓男 乾達彦)

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